2006年、まったく新しいコンセプトのコンピレーション・アルバムの誕生が、オーストラリアのクラブシーンで話題になっている。その名は「3D」。1人のDJにフォーカスし、普段クラブでかけている曲を中心に集めた「Club」、自身の作品にリミックスを加えながら再構成した「Studio」、そしてこれまで自身が影響を受けた曲やお気に入りを集めた「Home」という、ボリューム満点の3枚組の構成になっている。
その第1弾DJとして選ばれたのが、世界でも高い評価を誇る日本人ハウスDJ/クリエイターのサトシ・トミイエ。今回、プロモーションで来豪したトミイエ氏に、今作の魅力について話を聞いた。
――過去数回、そして今回もメルボルン、パース、シドニーなどオーストラリア各地でプレーしてきましたが、オーストラリアでプレーする魅力とは何ですか ?
僕がやっている音楽が好きだという人が多く、すごく評価してくれるところでしょうか。オーストラリアは、イギリスの影響が強いせいか、この手の音楽(ハウス音楽)のファン層がしっかりしている。人口が少ないから、クラブ・シーンの規模はそれなりだけど、クオリティーは悪くないと思いますよ。
――今作リリースまでの経緯を教えてください。シリーズ第1作目のコンパイラー(選曲者)になることに対するプレッシャーはありましたか ?
以前、このレーベルから他シリーズの話をいただいていて、その時は時間の関係でお断りしたのですが、その縁でまた「新しいコンセプトのコンピレーションがあるんだけど」とお話をいただきまして。今までミックスCDというと、「DJが最近クラブでかけた曲を選んでつなぎ出す」というのがパターンでしたけど、この『3D』のコンセプトとして新しいし、今まで誰もやってない。「これはおもしれぇー」となって、話を引き受けました。
ですから、プレッシャーよりも、基本のコンセプトがハッキリしている分、インスピレーションが沸きやすかった。作業量は多かったですが、かえって作りやすかったですね。
――今作に収められている中で、特に思い入れのある1曲、もしくは1枚はありますか。その理由とは ?
20年近くやってる中でひと区切りとも言える内容になっているので、特にディスク2と3は、どの曲にも思い入れがありますね。
今回一番の作業量を必要としたのが、ディスク2。一番新しい作品のリミックスや昔やった曲の再録音など、かなりの量のものをスタジオで新たに作り直したので、かなり時間をとられました。かっちりとしたコンセプトがあるので、アイデアから生み出す苦労はないのですが、形にする上での「産みの苦しみ」があって…。ただ、中途半端なクオリティーで終わってしまうのも嫌ですし。自分が性格的に突き詰めてしまうこともありますが、とにかく時間と作業量の面で苦労しました。
ディスク3は、自分の音楽スタイルに影響を与えたもの、また「これはすごいな」と思ったものを集めています。特に4曲目に入っているM.F.S.B.の「Mysteries Of The World」は、ハウス・ミュージックのすべての要素が詰まっているとも言える1曲です。
――これまでジャズ、ハウス、ソウルなど、ジャンルを問わず自分の作品に組み込み、また数多くのアーティストとのコラボやリミックスを手がけてきましたが、今注目しているジャンルはありますか?
基本的におもしろい音楽があれば、何でも好き嫌いせずに聴く方ですが、最近の音楽は「化粧直しされたもの」という印象を受けるものが多いかな。おもしろい曲もありますが、本質的にはそれほど音楽に違いがない気がします。まだ、ハウスやヒップ・ホップが出てきた時ほどの衝撃的なものはないですね。
ただ、これからはおもしろいものが出てくるんじゃないかと思いますよ。テクノロジーの進歩で音楽が変わってきたから、思いもよらない所から(新しい音楽が)出てくるかもしれない。音楽って直感で楽しめないと長続きしないと思うので、あんまりコンセプチュアルになっても難しいとは思いますけど。
――気になっている、もしくは注目している豪アーティストがいたら教えてください。
まずは、インフュージョン。今回、残念なことに自分と同じ日にイベントが重なってたので見られなくて…。あと、メルボルンだとKCテイラーとショーン・クインかな。度忘れしているけど、ほかにも何人かいます。
――最後にトミイエ氏にとってのハウスの魅力とは?
ハウスは、ソウルやテクノなどいろいろなスタイルに派生していける音楽。だからこそ、これだけ長く進化してきたんじゃないかなと思います。いろんなタイプの答えが出せるバリエーションの豊かさが、何年もやっててもまだ飽きない魅力じゃないかな、と思っています。
Satoshi Tomiie/Renaissance 3D: Satoshi Tomiie (Renaissance/Stomp)